2006年05月31日

お食事処 竹乃

「いらっしゃいませー!」

馴染みのご主人と若旦那に、「白身の魚、食べたいなぁ。今日は何が入ってる?」と声を掛ける。
「今日はねずっぽ。活きのいいのが入ってるよ!それと・・・」
数種類の白身魚をピックアップして紹介してくれたのを、いくつか天ぷらにしてもらう。どんな魚なのか楽しみに待ちながら、つまみ代わりに注文した新鮮なアスパラをほおばり、生ビールを一口。

若旦那は注文を受けてから、一匹ずつ手早く、丁寧に、魚を下ろしていく。魚は最高の状態でご主人の手でカラっと揚げられ、美しく盛られて、自分の席に運ばれてくる。
「うまいねー!」
自分の好みの料理が目の前に置かれて来る様を、ひたすら気長に待ち、時間を気にせず、ただただうまい!と思えるこの瞬間を堪能する。
店の主人は素材の紹介はしても、押し売りは決してしない。客と店との心地良い関係。

そんな気心の知れた馴染みの店、持ってますか?

単なる“料理を作る人”と“食べる人”では収まらない、大人の愉しみが溢れている粋なお店を今回はご紹介します。

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そこは緑ヶ丘駅から徒歩10分、高津団地の商店街に佇む、赴きのある店構えが目を惹く「お食事処 竹乃」。格子状の窓から漏れる暖色の灯り、一見なんとも敷居が高そうだけれど、暖簾をくぐればそこは庶民的な定食屋タイプの店内です。

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とにかく店中あちこちに貼られているメニューの多さに、まずは圧倒されてしまう!カウンターの上壁一杯に並べられた品書き札、立て看板に余すことなく貼られたおすすめメニュー、店内の柱を一周しているご飯ものメニュー、それに年中基本の手元メニュー達。

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「竹乃」はご主人と二代目の若旦那が共にカウンターに立ち、料理を振舞っています。初めは定食屋としてスタートしたものの、30年以上続けていくうちにこれだけのメニューが増えていったのだそう。

「このメニューの裏にはね、お客さんの顔がひとつひとつあるんですよ。“この食材、あのお客さん喜ぶだろうなぁ”と思いながら用意しておいて、それを注文してくれたときが本当に嬉しいんです。
来るか来ないかは分からない。でも、来れば必ずそれを頼んでくれる。
その食材の旬は限りあるものだから、毎回同じメニューがあるわけではないんですが、その季節になったら必ず置いておくんです。お客さんが要望したものを忠実にメニューへ連ねていって、喜んでもらえるのを楽しみにしていると、どれも大事なメニューだから自然とこんなに増えてしまうんですね。」

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これほどのメニューがあると、どれがおすすめなのかつい聞きたくなってしまいますが、ご主人はどれも自信を持って良い品だと言えるものを揃えているので、まずはそのお客さんがどんな好みなのかを知ることからアドバイス、おすすめが出来るようになると言います。
「お客さんによって、味も食感も好みが様々です。その時季に採れる一番良いものを経験で入荷してきますが、しめたばかりの鮮度の良い魚を誰しもが喜ぶわけではないんです。例えば、釣り好きな人だったりすると、鮮度の良さを特に喜んでくれます。逆に、コリコリな食感が好きじゃない人や、魚の味に深みが出た頃が好きな人などもいらっしゃいます。つまり、お客さんによって“食べ頃”が違うというわけです。だから、鮮度だけに頼ってお勧めしても、それをうまいと感じてもらえるかは別なんですよ。
その人の好みを知って、その人だったら今はこの食材を気に入ってもらえそうだというものを紹介する。それを注文するかはお客さんの範疇だし、うまさの押し売りもしません。だから、“良いものが入ったよ”とは言えても、“おいしいものが入ったよ”とは言えないんです。

お客さんには、ぜひ色々と自分の好みを見つけてもらえればと思っています。食材は季節によって違えども、次第に好みが分かってくれば“きっとこれも気に入ってもらえるだろう”と見当がついてくる。うちの店でのメニュー選びを学んでもらって、それを私達が学んでいく。そういうお互いに成長していける関係を築いてゆけるのが、理想ですよね。」

実際に食べたい料理を注文しようとすると、本当に悩む悩む!
大抵の季節ものの食材には産地が書いてあって、それだけでいかにも新鮮で美味しそう。また、その調理方法も数種列挙されていて、自分がどう食べたいのかという希望に合わせて、どうにでも対応しますよ!という意気込みが感じられます。

折角なので、旬な白身魚を5種類盛り合わせた「魚の天ぷら盛り合わせ(野菜入り)1,100円」と、なかなか食べれる店も無さそうな「極上 馬肉さしみ二種食べくらべ 1,370円」、それに「上寿司 1,450円」や「竹天丼 1,050円」、「豚のモツ煮込み(小)370円」などご飯ものや細々したものを注文しました。

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“ねずっぽ”というのはメゴチのことで、顔がねずみにそっくりだということからこう呼ばれているそうですが、今がまさに旬なんだとか。
このねずっぽのほか、シロアマダイ、サヨリ、ギンポ(スズキ科の魚)、トラフグをチョイスしてもらいました。
なかなかショウサイフグは扱っても、トラフグを扱うお店は珍しい!

「冷凍は一切使いません。旬の食材を、注文頂いてから包丁を入れていきます。」
最近はファーストフードや、パパっと出てくるラーメンなどに慣れてしまって、生のものをさばいて調理時間を待つようなお店に縁遠くなっている傾向にある中、こういうスタイルを理解してもらうのが難しいとご主人は言います。
「やっぱり最高の状態でお客さんにお出しするには、レンジでチンして調理するわけにはいかないんです。少しでも新鮮なものを、少しでも早く提供しようと一生懸命まな板に向かうんですが、時間の面ではファーストフードみたいのには敵いません。調理人は私と息子の2人だけですし、ましてやこれが土日や混み合う時間帯ならなおさらです。
それでも、ひとつひとつの料理に手は抜きたくありませんし、そういう状態を理解していただいて、待つ時間まで含めて“この店が好き”と通ってくださる常連のお客さんがいてくれることを、本当に有難く思っているんです。」

飛び込みでお店に入ったら、なかなかそういう店の状況を察するのは難しいですよね。チェーン店の居酒屋感覚で、つい、注文してもしばらく出てこなかったら「まだ?!」と催促してしまいがちですし、うっかり注文したメニューを忘れられてたら「何やってるんだ!」と気分を損ねてしまうかもしれません。
でも、何回か通って自分の好みも分かってくれて、お店のおやじさんと良い関係が出来上がっていたら・・・、きっと「いいよいいよ、今度は忘れないでヨ!」なんてつっこんで、またビールを飲みながら別の料理に箸を向けるなんて大らかな気分にもなれるのかも。

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今日は木曜日、平日半ばの夜ということもあって比較的空いています。料理もわりとトントンと出してもらえました。まずは馬刺しのご到着です。

皿の左側が霜降り肉、右側は赤身とタテガミ(白い脂)が交互に並べられた肉です。熊本産のこの馬肉、本当に柔らかくて間違っても半解凍の状態ではありません。
タテガミはそのままだと味がしないんですが、赤身と一緒に口に含むとサッパリした赤身に深みが出て良いバランスに!これだけの脂の塊を食べているのに、ちっとも脂っぽさは残りません。
むしろ霜降りの方が、のどの奥まで脂を意識させる濃厚さ。霜降りだからといってとろけてしまうのではなく、ちゃんと歯ごたえはしっかりしています。けれども筋が残ったりというのではなく、脂がじわーっと広がるように肉もいつの間にか食道へと吸い込まれ、口から消えている感じ。
どちらの肉も鮮やかな赤で新鮮そのもの!生姜と小ねぎで頂くその両肉の美味しさは、“高級まぐろの中トロと大トロどっちを選ぶ?”と迫られるくらい、甲乙付け難いレベルです。

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天ぷらの盛り合わせもまた然り。
どれもまわりはサクッと、中はふっくらしっとりの仕上がりです。白身の天ぷらというとキスの天ぷらくらいしか思い浮かびませんが、これだけのラインナップが揃うと、私の舌と知識ではさてどれがどの魚だったのか“多分・・・あれ?”程度にしか判別出来なかったのが悔やまれます。
でも、きっとこれがメゴチなのね、これがきっとフグだわね、と先ほどの揚がる前の魚体を想像しながらもぐもぐ。うん、どれもイケル。

ちなみにこの盛り合わせ、魚がメインなんですが添えてある野菜が美味しい!
「かぼちゃは北海道産、サツマイモは金時を使ってます。メインの食材が美味しいのは当たり前、サブも一流のものを!という気持ちでどの料理も作ってますよ。」
おっしゃる通り、大きめにカットされた野菜はとってもホクホク、自然な甘みがにじみ出る最良なものばかり。この盛りの良さで1,100円って、安いですよね?
「良いものをなるべく安くご提供したいんですよ。お腹一杯食べても、思ったより安かったね!と感じてもらえれば最高ですね。」
あくまでもお客様ありきの商売魂。ほんと、人の良さそうなご主人と若旦那の笑顔がたまりません!

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ほかにも、大根・こんにゃく・豆腐・長ネギなどシンプルな具財の「豚モツ煮込み」や、まったりして生臭さ一切無しの“しらすの軍艦巻き”が目を惹く「上寿司」なども運ばれ、ひとつひとつの素材だったり、味付けだったりを堪能しながら料理をゆっくり楽しみました。
ああ、お酒が飲めないのが残念・・・。新潟や福井、地元千葉の日本酒も、とびきり美味しそうなのに・・・!

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そんなお酒が飲めず悔やんでいる私に、若旦那が一言。
「実はね、自分はお酒が飲めないんですよ。こういう店だとお酒を注文しないと料理が頼みづらいってところがあるかもしれませんが、うちはむしろお酒が無くても十分新鮮なお魚や、旬の食材を堪能してもらえると思いますよ。
あと、お子さんがいらっしゃるご家族にも、美味しいご飯を食べに来てもらいたいですね。なかなか子供連れだと、大人は来たくても足を運びづらいじゃないですか。自分にも実際子供が出来て、そういう状況を理解出来るようになりました。
昔からの常連さんの中には、小さい頃から親に連れてきてもらって、自分で稼ぐようになってから自分のお金で食べに来てくれる、そういう方もいたりするんですよ。」

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身の詰まったプリプリの海老を、甘すぎないダシの利いたタレで頬張りながら、ご主人のこんな話も聞きました。
「私はね、割烹料理・懐石料理の出なんですよ。料理だけじゃない、仲居のもてなしも、盛り付ける器も、店全体がバランス良くすばらしくて、はじめてお客さんが満足するという考えで来ました。だから、一品料理を始めるってときは、一体どんなものにすればいいのか本当に悩みました。
でも、とにかくお客さんが嫌な思いをするものだけは出したくない!と思っています。もう、料理を美味しい味付けで出すというのは最低ライン、基本なんです。技術を技術として提供するのは当たり前のことなんです。
例えば、メニューを表示していて、お客さんが注文したとき欠品だなんてことは間違っても無いようにしてます。折角お客さんが食べたい!と思ったものが用意できないなんて不愉快なことにならないように、出来る限り食材を準備し、それでも切らしたらメニューはすぐ下げる。
料理の技術なんて10年もやればある程度にはなります。そこから先、何が出来るかというのが大切だと思うんですよ。

ほかにも、魚なんかは採れる海によって全然モノが違いますし、より美味しいものを出そうとするなら“どこにどういう魚がいて、どうすれば旬のものが手に入るのか”という知識や経験が不可欠なんです。
ただ人間の味覚にだけマッチした料理を出すのなら、忠実な調味料の配合でどうにでもなる。でも、それでは3回くらい食べたら“もういいかな?”と飽きられてしまいます。どう変化させるか、どうしたら喜んでもらえるか、それを一番に考えてやってきたからこそ、こういう団地の中のお店でも、30年以上続けてこれたんだと思います。
本当に、お客さんあっての店です。お店を気に入って、足を運んでくれるお客さんを、ずっと大切にしたいんです。」

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なかなか、お店の人が私たちお客に対して、どんな想いを馳せながら料理を作っているのかなんて、聞く機会はないものです。ですが、こんなにお客のことを考えて、満足してもらいたい一心で取り組んでいるなんて、いくら常連であってもそうそう具体的には感じとれないかもしれません。

出来れば自分だけのとっておきのお店にしておきたい、馴染みの場所。そういう気持ちにさせるお店のご主人は、きっとこんな想いで毎日お客さんを待っているんでしょうね。
お金を払って食べているんだから当然のこと、と思ってしまえばそれまでだけれど、そういう気持ちにさせない何かが、このお店には溢れています。

帰り際、「ご馳走様でした、美味しい料理を有難うございました。」という言葉が自然と出てきました。

今回の竹乃は、そんなお店です。

●お食事処 竹乃 047-450-1772〔予約可〕
千葉県八千代市大和田新田63-1(地図
営業時間/11:30〜14:15、17:00〜22:00
定休日/水曜日
駐車場/有り(15台 商店街駐車場)
※竹乃「当日のお勧め」ブログ/http://blog.livedoor.jp/takeno0615/
※「気まぐれ小鉢料理」サービス券のある「食べる八千代」掲載ページはこちら⇒http://www.yachiyo-gourmet.jp/wa/takeno/index.html 


posted by やちなび子 at 00:00 | 千葉 ☔ | Comment(3) |  > 和食 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
是非行ってみたいです。

お酒も飲みたいから車の運転はできませんね。


Posted by あいあい at 2006年06月02日 00:46
前から良い評判を聞いていたお店ですが、ここまでこだわりがあるとは!
行かなければいけませんね!

「SAGE」や「王府」など、なかなか入りにくい良店を紹介していただき、
ほんと、ありがとうございます。

これから蒸し暑くなるし、お腹も大きくなるし、生ビールの誘惑もあって…
大変だと思いますが、なび子さん、のんびりがんばってくださいね〜♪
Posted by Yosa at 2006年06月02日 10:57
あいあいさん、お久しぶりです。
緑が丘駅からも歩いて行ける距離なので、ぜひ行ってみてくださいね。
お酒の感想、お待ちしてます^^

Yosaさん、こんにちは。
そうなんですよー!生ビールの誘惑どころか、母乳で育てられればと思っているので年末、お正月とかもダメかもです・・・。
竹乃さんは、やっぱり評判も良いんですね。なかなかご飯食べに行っても、お店の方のお話を聞ける機会は少ないので、レポートを書こうと思うときには出来るだけ根掘り葉掘りこだわりを聞いて、お伝えできるように頑張ってきますね!
Posted by やちなび子 at 2006年06月04日 22:59
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